ある程度長い年月を生きて、数々の辛い経験が、生のままではなく、濾過されて、純度の高い言葉に結晶している、そういう美しさが心に沁みる。
身なし貝 を 拾いに
(「窟」)
...
貝殻、ではなく、身なし貝、と言うことで、そこにないものが意識される。ないものを拾いにいくような徒労感。
毎日 手おくれ気味に
なにか 待っていたのだが
おそらく
大きな約束をわすれている
という四行が含まれている作品「柱」を終える次の三行は何度読んでも心をえぐる。
煤けた虚に
翅のない蝶
眼をあけて
たった三行、十五文字の持つ力。
この詩行は、「著莪」の、
鏡の裏に 階段をおりてくる痛みが映る
展翅板に刺されたまま 発光する蛍よ
とも呼応している。この詩行も、凄絶な美しさだ。
沈潜した徒労感、とも呼びたくなる独得の感覚は、次の詩行にも色濃く感じられる。
石畳 すきまの土から
錆びたものがいっせいに発芽している
(「帰、去来」)
かくしていた霧灰に洗われた
家のおくには
消えた線香が立って
(「渕」)
詩集の最後に収められた「20×5」からはしかし、絶望の中から、透明な光のようなものも射してくるのだった。
透蚕の浄心 手の中につつみ
なかそらにむけて
ゆびをいっぽんずつ
ひらいていく
いつか記憶がほとびる
そこからの綻びを待つ日
毎日 手おくれ気味に
なにか 待っていたのだが
おそらく
大きな約束をわすれている
という四行が含まれている作品「柱」を終える次の三行は何度読んでも心をえぐる。
煤けた虚に
翅のない蝶
眼をあけて
たった三行、十五文字の持つ力。
この詩行は、「著莪」の、
鏡の裏に 階段をおりてくる痛みが映る
展翅板に刺されたまま 発光する蛍よ
とも呼応している。この詩行も、凄絶な美しさだ。
沈潜した徒労感、とも呼びたくなる独得の感覚は、次の詩行にも色濃く感じられる。
石畳 すきまの土から
錆びたものがいっせいに発芽している
(「帰、去来」)
かくしていた霧灰に洗われた
家のおくには
消えた線香が立って
(「渕」)
詩集の最後に収められた「20×5」からはしかし、絶望の中から、透明な光のようなものも射してくるのだった。
透蚕の浄心 手の中につつみ
なかそらにむけて
ゆびをいっぽんずつ
ひらいていく
いつか記憶がほとびる
そこからの綻びを待つ日
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