2017年12月18日月曜日

法橋太郎さん『永遠の塔』(思潮社)

   2月25日発行、法橋太郎さん『永遠の塔』(思潮社)。
帯に、『山上の舟』から18年とあって、感慨深かった。もうそんなに経ってしまったのか。『山上の舟』を読んだ時のずっしりした印象は今も変わらず私の中にあって、法橋さんが第二詩集を出されたことは、とても嬉しい出来事だった。
 『山上の舟』からの18年は、詩人にとって苦難に満ちた日々だったのではないだろうか。『永遠の塔』には、苦渋を舐め、深淵に迷った者からのみ発せられるような、深い叫びが聞こえてくる。神に見捨てられたと絶望しながらも、なおも神へと呼び掛ける声を私は聞く。その声は、何処ともしれぬ、不思議な場所から届く。      
...
  おれの見えないところで風が吹いた。その風
  がおれの身体を吹き抜けてゆくとき、古い時
  代の印刷機が湖に沈んでいった。
               (「風の記録」)

 風が吹き抜ける今と、湖に沈む印刷機が生きた「古い時代」とが、詩行の中で出逢う。時間を自在に往き来する感覚がここにある。

  永遠に過ぎ去るのは今だけか。身体の内と外
  は空気より透明な廃墟だ。宇宙が音を鳴らし
  た。水垣には藻が色づき、壊れた水車が、軋
  み廻った。少年のむしりとった草が水垣を流
  れ去った。
               (『永遠の塔』)

 宇宙の鳴らす音と、壊れた水車の軋む音ともまた、詩行の中で交響する。遠い音と近い音との共存は、空間をも自在に往き来する詩人の意識によってもたらされているのではないだろうか。

  荒川沿いの小径を歩きつづけた。足首を痛め
  たまま、二月のドラムカンに燃える火を見た。
  この世の最後かと思うような夕暮れのあと、
  夜が明けるまでの小径にいくつもの水たまり
  がいくつもの貌となって現れては消えた。朝
  には黒い雨が降った。
              (『自然の摂理』)

 荒川沿いという、現実の地名、「足首を痛めた」という、個人的な感覚から一気に、いつ、どことも知れぬ場所へと読者は連れ去られる。
 深淵へ深淵へと沈んだ力をばねにして、とてつもない広大な時空を一瞬にして移動する感覚がこの詩集にはある。そのスケールの大きさに圧倒される。
 今もFacebookで旺盛に作品を発表し続けている法橋さんの、次の詩集が今から楽しみだ。

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