2018年7月16日月曜日

「大磯便り」更新:今を去る6月28日、百舌鳥の大群が家の前にいて怖かった時の話

以下の文章をアップした後で、写真の鳥はムクドリではないかというご指摘を頂きました。黄色い嘴と黄色い脚、どうもムクドリのようです。ムクドリは日本全国どこにでも一年中いる鳥で、ムクドリを百舌鳥と勘違いして大騒ぎしていたようです。とんだ笑い話です。
以下は最初にアップしたままの文章です。

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 朝刊をとろうとして玄関を出ると、家の前を走る電線に、鳥が無数に群がっていた。烏よりは小さいが、雀に比べれば遙かに大きい鳥で、平行して二本三本と走っている電線の上にびっしり並んでいる上、留まる場所を探しているのか、電線の近くを忙しげに飛び回るのも何十羽といる。気持ちが悪い。大地震とかあるんじゃないか。
 新聞はとらずに、急いで玄関の中に戻り、
「ちょっと、廊下出て窓の外見て。すごい鳥。気持ち悪いよ」
 とTに声をかけるとすぐ返事があって、Tが二階の廊下に出る気配がして、
「ほんとだ。何だろう」
 Tもおかしいと思ったようだ。
「たぶん百舌鳥だと思うんだよ」
 昨日、ギャー、ギャー、と、鋭く鳴く声を聞いたのだ。晩秋ならいざ知らず、梅雨の真っ盛りという時期に百舌鳥の声が聞こえるのは変だと思っていたのだった。しかし昨日は一羽が鳴く声を一回聞いただけだったけれど、今日のこの数は何だろう。私も二階に上がって廊下の窓から見ると、電線に並んだ百舌鳥たちはいかにも、長旅の後やっと一休みできる、という風情で、片方の羽を持ち上げたり、首を百八十度後ろに向けたりして、体のあちこちにしきりに嘴を突っ込んで身繕いしている。これまでずっと、できなかった分を取り返そうとするかのようだ。やれやれ、やっとここまで来た、と言う百舌鳥の声が聞こえそうだ。
「写真撮れば」
 Tに言われて大急ぎでカメラを取りに下に行き、また上に上がる。急いでシャッターを押すと、電線の上に並んだ百舌鳥はとても小さくて、数も少なく見える。
これだと余り怖くない。たぶん、雀と見分けがつかなくなるからだろう。鳥の大きさがわかるように、ズームをかけて撮らないとだめだ。数は写らなくても電線の太さとの比較で、大きな鳥だとわかる。それを何枚も撮れば、事態の異様さが人にも伝わるだろう。
 ズームをかけて、一羽だけ撮ってみる。ねずみ色の冴えない色調、ぼさぼさした羽毛、やっぱり百舌鳥だ。電線の上の百舌鳥が一羽、梅雨空を背景にグレーの濃淡で撮れていて、なんだかどこかで見た絵だと思うと、そうだ、宮本武蔵の描いた水墨画だ。
今度は家のすぐ前の電柱の、碍子の上に並んでいる二羽にカメラを向ける。しきりに身繕いしていて、嘴を羽の中に突っ込んでいるから丸い塊になってしまって鳥なのか何なんかわからない。顔を上げた瞬間を狙ってシャッターを押す、撮れた。再生画面にして見ると、碍子の上の二羽が揃って右を向いている。
するとこれもなんだか、水墨画みたいだ。なんだか可笑しくなってきた。
 百舌鳥に飽きて部屋に戻り、パソコン画面を見ているTに、
「ねえ、見て。写真撮ったんだけどさ。水墨画みたいになっちゃう」
 見せるが、大して興味もなさそうに眺めてすぐまた、パソコン画面に戻ってしまう。
「なんかあったじゃんねこういうの、宮本武蔵? 百舌鳥だからさ、写真撮ると水墨画みたいになっちゃう、これも見て」
 二羽が同時に右を向いている写真も見せたがTはもうすっかり百舌鳥には興味がなくなってしまった様子だから、
「地震来るかもよ。東日本大震災の前にも来たんだよ百舌鳥」
 脅かすように言うまた少し興味を引かれたらしく、
「そんで、どのくらいで来た地震?」
 訊いてくる。
「百舌鳥来たのは夏。夏来たから変だと思ったの、普通秋じゃない百舌鳥来るのって? ギャーギャーって言うの聞こえるとさ、ああもう秋だなあって」
「晩秋だよな」
「もう、冬になるなあって感じするよね百舌鳥鳴くと」
「夏に百舌鳥が来てそんで翌年に地震じゃあ何にもわからないじゃん。そんなに時間空いちゃあ」
「でもさあなんかあるなって思うじゃん。家具固定したりとかできるじゃん」
「それじゃあだめだ、すぐ来るのがわかんなきゃあ予知にはならん」
「ここ来たっていうことはさ、元いたところが危ないってことだよね、元いたところに来るのかもね地震」
「どこいるんだ百舌鳥って夏」
「どこだろうねえ。晩秋にこっちくるんだから寒いところ? ここも、このままいれば安全ってことだろうけど、またいなくなったら危ないね。一休みしてるだけで、また行くかもねどっか」
「危ないなあー」
 適当に答えて、パソコン画面を眺めながらキーボードを叩いている。フェイスブックにでも写真を載せて、警告にしようと思ったのだったけれど、写真は水墨画みたいで迫力ないし、時間に幅がありすぎて予知には役立たないし、写真を載せてもデマを流すことにしかならないかもしれない、などと考えながら私は階段を降りて、玄関を出て朝刊を取りに行く。
 

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